日本型バイオ燃料生産拡大対策の問題点

 「日本型バイオ燃料生産拡大対策」に対して「農水官僚、血迷ったとしか考えられない。」とする批判的な記事を農業情報研究所様がエントリーされていたので紹介します。原文は記事下に掲載。



□日本型バイオ燃料生産拡大対策


2008年度政府予算案の農林水産関係予算に、「日本型バイオ燃料生産拡大対策 7955百万円」が盛り込まれた。洞爺湖サミットに向けた地球環境問題への積極的貢献のためという。



□政策目標


「食料自給率の低い我が国において、食料供給と競合しない稲わらや間伐材等の未利用のバイオマスを有効に活用し、国産バイオ燃料の拡大に向けた取組を進め」ることがポイントで、2030年頃には草本系(稲わら、麦わら等)から180〜200万klのエタノールを生産する等、「セルロース系原料等を活用した国産バイオ燃料の大幅な生産拡大(2030年頃には600万キロリットル)」が政策目標だという。



□国内の稲藁全部エタノールにしても目標には足りない!?


 草本系原料の大部分を占める稲藁から180万〜200万klのエタノールを生産するとすると、857万トンから952万トンの稲藁が必要になる。2003年の稲藁全生産量は871万トンだ。計算上では生産される稲藁すべてをバイオ燃料原料としなければ(あるいはそうしたとしても)、この政策目標は達成できない。



□土壌管理にも有機物の施用目標が


 農水省は、ポスト京都議定書で農地が温室効果ガス吸収源として位置づけられることをにらみ、土壌管理の目標に有機物の施用目標を盛り込む方針。水田に10?当たり1トン、畑に同1.5トンの堆肥を施用すると、全国の農地で京都議定書による日本の温室効果ガス削減目標の1割に相当する年間220万3000トンの炭素が新たに貯留されることになる。


 ところで、今年の水田面積は253万ha、畑面積は212万haだから、それぞれに10アール当たり1トン、1.5トンの堆肥を投入するとすると、水田で2,530万トン、畑で3.150万トン、計5,680万トンの堆肥が必要になる。


 堆肥原料の主要部分をなすであろう稲非食部の生産量は1,469万トン(2004年)にすぎない。麦非食部を加えても1,700万トンに届かない。



■まとめ


 日本型バイオ燃料生産拡大対策では「食用原料以外から作るバイオ燃料」に可能性を求めているが、それさえも量的な問題があるのではないかという農業情報研究所の指摘はさすがである。


 アメリカの新エネルギー法案も「コーン・エタノール以外の新バイオ燃料」に賭けているわけであるが、量的な問題が立ちふさがるかもしれない。


 バイオ燃料は、休耕地や荒地で作れる食用でない肥料のいらないエネルギー作物の登場がない限り、量的な問題をどこまでも引きずることになりそうだ。



 アメリカの新エネルギー法案が成立
 http://d.hatena.ne.jp/Farmers_Energy/20071223/p1


 「日本型バイオ燃料生産拡大対策」に69億円上積み
 http://d.hatena.ne.jp/Farmers_Energy/20071222/p1


 バイオ燃料の問題点
 http://d.hatena.ne.jp/Farmers_Energy/20071216/p1







 08年政府予算案 バイオ燃料生産に稲藁全部? その上大量の堆肥にも!
 農業情報研究所(WAPIC)
 07.12.24

 http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/earth/energy/news/07122401.htm

2008年度政府予算案の農林水産関係予算に、「日本型バイオ燃料生産拡大対策 7955百万円」が盛り込まれた。洞爺湖サミットに向けた地球環境問題への積極的貢献のためという。

 農林水産省:平成20年度農林水産予算主要施策別概算決定の概要(07.12.24)
 ? 地球的視野に立った資源・環境対策の推進(PDF:986KB)

「食料自給率の低い我が国において、食料供給と競合しない稲わらや間伐材等の未利用のバイオマスを有効に活用し、国産バイオ燃料の拡大に向けた取組を進め」ることがポイントで、2030年頃には草本系(稲わら、麦わら等)から180〜200万klのエタノールを生産する等、「セルロース系原料等を活用した国産バイオ燃料の大幅な生産拡大(2030年頃には600万キロリットル)」が政策目標だという。

 ところで草本系原料の大部分を占める稲藁から180万〜200万klのエタノールを生産するとすると、857万トンから952万トンの稲藁が必要になる[エタノール生産量=必要稲藁量×乾物率(0.8)×エタノール収率(0.3)として―環境省エコ燃料利用推進会議:「輸送用エコ燃料の普及拡大について」、平成18年5月、別添9]。2003年の稲藁全生産量は871万トンだ。おそらくは、生産される稲藁すべてをバイオ燃料原料としなければ(あるいはそうしたとしても)、この政策目標は達成できない。稲藁以外の草本系原料もある?

 しかし、農水省は、ポスト京都議定書で農地が温室効果ガス吸収源として位置づけられることをにらみ、土壌管理の目標に有機物の施用目標を盛り込む方針だ。水田に10?当たり1トン、畑に同1.5トンの堆肥を施用すると、全国の農地で京都議定書による日本の温室効果ガス削減目標の1割に相当する年間220万3000トンの炭素が新たに貯留されることになる。(農水省 温暖化抑制のために農地への有機物施用目標 どうやって実現?,07.12.13)。これで農業が温室効果ガス排出削減に少なからぬ貢献をすることになるという。 

 ところで、今年の水田面積は253万ha、畑面積は212万haだから、それぞれに10アール当たり1トン、1.5トンの堆肥を投入するとすると、水田で2,530万トン、畑で3.150万トン、計5,680万トンの堆肥が必要になる。堆肥原料の主要部分をなすであろう稲非食部の生産量は1,469万トン(2004年、稲藁だけでなく、もみ、くず米も含む)にすぎない。麦非食部を加えても1,700万トンに届かない(バイオマス情報ヘッドクォーター:基礎データ)。他の堆肥原料もある?しかし、それだってバイオ燃料原料と競合する。

 農水官僚、血迷ったとしか考えられない。予算獲得の絶好機だと。しかし、こんな実現不可能な目的のために税金を取られる国民はたまったものではない。