人工海底山脈でリン回収


 海底にブロックを積むだけで植物プランクトンが増えCO2を吸収、引いては魚も増えて漁獲量が多くなるという話が世界日報に掲載されいたので内容をまとめてみる。



■人工海底山脈とは



 漁獲量を増やすためには海中の食物連鎖を豊かにすればいい。食物連鎖を豊かにするには植物プランクトンや海藻を増やすことがスタートとなる。植物プランクトンや海藻は光合成を行うことで増えるわけだが、この光合成にはリンなどの栄養塩類が必要となる。この栄養塩類は水深五十メートル以深の層に豊富に含まれているのでそれを光溢れる海面近くにもってくる必要がある。


 そこで海底にブロックを置き、湧昇流(ゆうしょうりゅう)を発生させる。この湧昇流により、太陽光が当たる水深まで海水とともに栄養塩類を巻き上げる。つまり海底に据えたブロック群により、海水とともに栄養塩類を上昇させ、魚介類の栄養素として提供、結果的に基礎生産力を飛躍的に高めることができる。


 もちろん植物プランクトンが増え光合成作用が活発になればCO2が消費される。長崎県生月島の実験では、漁獲量は7倍となり、植物プランクトンによる年間の二酸化炭素吸収量のうち固定量は年間三千五百二トンに上ったとされている。漁獲量の増加はもちろん、地球温暖化の抑制効果も期待できる。


 また魚骨には、豊富なアミノ酸蛋白質ばかりでなく有機リン酸が多く含まれており、肥料としても有望である。


 海底に山を築くことで湧昇流を発生させ水産資源を増産する「人工海底山脈」の技術は、リン等の栄養塩類を海面近くに巻き上げることで基礎生産力を飛躍的に高めることができる。注目したい。







人工海底山脈/実用化で水産資源の回復を
世界日報
http://www.worldtimes.co.jp/syasetu/sh071125.htm

 海底に山を築き、湧昇流(ゆうしょうりゅう)を発生させ水産資源を増産する「人工海底山脈」の技術が注目を浴びている。かつて世界一といわれてきた日本の漁業が、先の見通しが立たないほど不振に陥っているが、水産資源回復の一策として注目したい。

生産力向上へ有望な手法

 人工海底山脈の開発は、水産庁の補助事業として長崎県生月(いきつき)島沖や瀬戸内海などで、一九九五年から行われている。これは食物連鎖のルールにより、海洋生物の生産力をアップする技術で、その際使われるブロック群を“海底山脈”に見立てている。

 海中の食物連鎖植物プランクトンや海藻から始まるが、この植物の発生、生育の光合成には栄養塩類(窒素、リン、珪素など)が不可欠。水深五十メートル以深の層にはこの栄養塩類が豊富に含まれているが、従来、手付かずだった。そこで海底に据えたブロック群により、海水とともに栄養塩類を上昇させ、魚介類の栄養素として提供、結果的に基礎生産力を飛躍的に高めようというものだ。

 愛媛県宇和海では、四十五メートルの海底に高さ十メートルの衝立型のコンクリート構造物を設置した結果、水深三十メートルの栄養塩濃度が二−四倍になったことが確認された。また長崎県生月島の実験(二十キロ×十八キロの海域)で、年間の漁獲量が二百五十トンから千五百トンに増加した。他所でも同様の結果が出ており、水産資源回復のための有望な手法であることは既に明らかになっている。

 さらに、この人工海底山脈事業の利点として、最近、大気中のCO2(二酸化炭素)を減らす効果があることが分かってきた。植物プランクトンが増え光合成作用が活発になれば、CO2が消費される。生月島では、植物プランクトンによる年間の二酸化炭素吸収量のうち固定量は年間三千五百二トンに上った。地球温暖化の抑制効果も期待できる。

 同事業について水産庁では「対費用効果を合理的に見極める期間が必要」(広報課)としているが、今後、政治がリードして推進し、大きく展開していく必要がある。

 わが国は、資源の枯渇に加え公海での漁業規制強化で遠洋漁業も縮小傾向にあり、限定された海域に頼らざるを得なくなっている。しかし、この間、魚介類の生産に最重要である沿岸の浅海や干潟が埋め立てられてきた。養殖、川や湖の内水面は、八○年代後半まで新技術の導入で発展したが、環境汚染や従事者不足で頭打ちの状態が続いている。

 その上、政府の漁業者対策は、離職者に対する補償などに追われてきた。高齢化や後継者難による漁業従事者の減少をカバーするためにも、科学技術を生かした漁場造成、資源増大に前向きな姿勢が重要である。

 一方、農林水産省の水産資源増産の補助事業としては、このほかに全国の植樹運動がある。山の森林からの清流を確保し、沿岸部の魚介類資源を回復しようという壮大な試みで、北海道内の沿岸部や東北地方の太平洋岸そのほか新潟、広島の各河川流域、九州の球磨川などの地域で盛んになっている。これも国造りの新しい運動として全国に展開していくべきだ。


魅力ある事業を創り出せ


 「水産大国」復活のためには、漁場の持つ公益的機能の効果を維持し、生産と漁獲を繰り返すシステムを堅固にすることが第一である。国はそのため、新しい発想も取り入れ、魅力ある事業を創り出し、引いては漁業の若い担い手を呼び込むべきである。