有機ハイドライドとは

 前回、ハイドライドとは負の電荷を帯びた水素原子のことであり、水素原子が電子を受け取り負の電荷を帯びたものと考えればよいことは理解した。


 次に比較的情報の多い、有機ハイドライドを考えてみる。


 有機ハイドライドに関しては「連山」の永井俊哉氏のエントリーが詳しいため、その内容を中心にまとめてみる。(原文は下に引用)



有機ハイドライドとは


 有機ハイドライドとは、水素を結合した有機化合物のことである。例えば、ベンゼンなどの芳香族化合物に水素を結合させたものは有機ハイドライドと呼べる。



有機ハイドライドのメリット


 現在、燃料電池で自動車を500キロメートル走行させるためには5キログラムの水素が必要である。これを水素ガスで換算すると56000リットルとなる。一方、有機ハイドライドでは約70リットルで必要な水素を供給することができる。


 また有機ハイドライドは、通常の温度と気圧で液体であり物性が石油に似ているので、ガソリンスタンドなどの既存インフラを活用することができる。


 さらに有機ハイドライドは、水素を放出した有機化合物に再び水素を結合させることができる。つまり水素の吸蔵も放出も容易に制御することができるのだ。



有機ハイドライドのデメリット


 有機ハイドライドは、水素の吸蔵も放出も白金触媒を使って熱力学的な可逆性において促進される。つまり高価で希少な白金が触媒として必須であり、さらに水素を放出させるには250-300℃程度に加熱する必要があるのだ。


 また、有機ハイドライトには様々な種類があるが、それぞれが実験段階にとどまっており、実用段階にはまだ至っていない。



有機ハイドライド実用化への研究


 有機ハイドライド実用化への研究は「有機ハイドライド利用システム研究会」にて行われている。今後はここの情報提供をチェックしていれば間違いないだろう。


 有機ハイドライド利用システム研究会
 http://www.organic-hydride.com/


 ちなみに現在の有機ハイドライド利用システム研究会の会員は下記の通り。


 有機ハイドライド利用システム研究会 会員
 http://www.organic-hydride.com/list.html

有機ハイドライド利用システム研究会 会員

1 株式会社ジャパンエナジー http://www.j-energy.co.jp/
2 石油資源開発株式会社 http://www.japex.co.jp/
3 中部ガス株式会社 http://www.chubugas.co.jp/
4 北海道電力株式会社 http://www.hepco.co.jp/
5 電源開発株式会社 http://www.jpower.co.jp/
6 株式会社荏原製作所 http://www.ebara.co.jp/
7 株式会社新日石総研 http://www.noc-techno.co.jp/
8 バブコック日立株式会社 http://www.bhk.co.jp/
9 新日本製鐵株式会社 http://www.nsc.co.jp/
10 三菱化学株式会社 http://www.m-kagaku.co.jp/
11 住友化学株式会社 http://www.sumitomo-chem.co.jp/
12 JFEケミカル株式会社 http://www.jfe-chem.com/
13 太平洋セメント株式会社 http://www.taiheiyo-cement.co.jp/
14 株式会社電制 http://www.dencom.co.jp/
15 株式会社明電舎 http://www.meidensha.co.jp/
16 株式会社島津製作所 http://www.shimadzu.co.jp/
17 株式会社ケミックス http://www.chemix.co.jp/
18 株式会社バンテック http://www.vantec.com/
19 日産自動車株式会社 http://www.nissan.co.jp/
20 トヨタ車体株式会社 http://www.toyota-body.co.jp/
21 株式会社本田技術研究所 http://www.honda.co.jp/RandD/
22 フタバ産業株式会社 http://www.futabasangyo.com/
23 小岩金網株式会社 http://www.koiwa.co.jp/
24 大成建設株式会社 http://www.taisei.co.jp/
25 田中貴金属工業株式会社 http://www.tanaka.co.jp/
26 財団法人ファインセラミックスセンター http://www.jfcc.or.jp/
27 三菱商事株式会社 http://www.mitsubishi.co.jp/
28 みずほ情報総研株式会社 http://www.mizuho-ir.co.jp/
29 株式会社四国総合研究所 http://www.ssken.co.jp/
30 株式会社苫東 http://www.tomatoh.co.jp/
31 ネクステックス・コンサルティング株式会社
32 株式会社フレイン・エナジー http://www.hrein.jp
33 東京工業大学 統合研究院 教授 柏木孝夫 http://www.titech.ac.jp/home-j.htmll
34 北海道大学 名誉教授 市川勝
35 東京理科大学工学部 教授 斉藤泰和 http://www.sut.ac.jp/labo/popup.php?text/syn_saito
36 芝浦工業大学 学長 平田賢 http://www.shibaura-it.ac.jp/kouhou/sit/president_profile.html
37 慶応義塾大学大学院 教授 金谷年展 http://www.kanaya.info/
38 ガイアナ協同共和国名誉領事 長谷村資 http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/guyana/
39 高橋誠一郎






水素エネルギー(2)水素の貯蔵と運搬
永井俊哉
http://www.teamrenzan.com/archives/writer/nagai/hydrogen_storage.html

有機ハイドライドは、水素を共有結合により取り込んだ有機化合物のことで、北海道大学名誉教授の市川勝博士が中心となって開発してきた、水素の貯蔵・運搬媒体の有力候補である。

ベンゼン、ナフタレン、トルエンなどの芳香族化合物は、白金触媒のもと、それぞれ、シクロヘキサン、デカリン、メチルシクロヘキサンなどの有機ハイドライドへと化学的に変換され 、水素ガスを貯蔵する。

有機ハイドライドは、ボロハイドライドとは異なり、水素を放出した後、再び水素を吸蔵し、再利用することが容易にできる。水素の吸蔵も放出も、白金触媒のもと、熱力学的な可逆性において、促進される。

水素化反応は発熱反応で、脱水素化反応は吸熱反応である。燃料電池に水素を提供する時には、250-300℃に加熱しなければならない。固体高分子形燃料電池だと、作動温度はせいぜい100℃だから、別途熱を加えなければならない。これは、有機ハイドライドの短所の一つである。

有機ハイドライトには、様々な種類がある。シクロヘキサンとデカリンが有機ハイドライドとしては有名であるが、シクロヘキサンの原料であるベンゼンは有害 であり、デカリンの原料であるナフタレンは常温で固体だから取り扱いが難しい。総合的な観点から、トルエン→メチルシクロヘキサンの組み合わせが一番有望というのが、市川博士の見解である。

前回「燃料電池はどれが有望か」で述べたように、有機ハイドライドは通常の温度と気圧で液体であり、 固体のボロハイドライドとは異なり、物性が石油に似ているので、ガソリンスタンドやタンクトレーラーや油送船など、自動車のための既存の燃料インフラを活用することができるので、燃料電池自動車に水素を供給する媒体として適している。

現在、燃料電池が500キロメートルの距離を走るのに、5キログラムの水素が必要である。これは通常の気温と圧力では、56000リットルの水素ガスに等しいが、有機ハイドライドでは、約70リットルで貯蔵が可能である。このことは、水素ガスの体積は、有機ハイドライドへと化学的に貯蔵されるならば、1/800から1/1000に圧縮されるということである。 以下の図を見てもわかるように、有機ハイドライドは、圧縮ボンベや水素吸蔵合金とは異なり、米国における燃料電池車への適応基準値であるDOEあるいはUSCAR目標値を達成して いる。


[ 季刊 道路新産業,No.79,p.5]
有機ハイドライトを普及させる上で最大の障害は、触媒に高価で希少な白金が必要であることだ。 燃料電池自動車用に最適といわれている固体高分子形燃料電池も白金触媒が必要であるから、両者を組み合わせることによる白金の使用量は相当な量になる。現在、白金の1グラム当たりの価格は、4000円以上も する。また、白金の世界全体の推定埋蔵量は約8万トンとみなされている。四輪自動車の保有台数は、世界全体で8億台ほどだから、白金を四輪自動車だけのために使うとしても、1台あたり100グラム程度しか ない。また、白金の産地が南アフリカやロシアといった場所に偏っているのも不安材料の一つである。

そこで、市川博士も、白金を節約する方法 をいろいろと探索している。面白いことに、白金の使用量を減らすことは、必ずしも性能低下にはつながらず、むしろ向上させることもある。プラチナ単独よりも、少量のモリブデンタングステンなどを加えたバイメタル触媒や、ニッケル触媒にプラチナを少量添加する方が、触媒活性が高くなるとのことである。この他、熱伝導性の高いアルマイト基板を用いて白金触媒の性能を向上させるとか、金属カーバイドと白金とのハイブリッド触媒の開発で、使用量を10分の1にするなど、白金の使用量を減らす努力が続けられている。

有機ハイドライドの研究をしているのは、市川博士だけではない。産業技術総合研究所の白井誠之有機反応チーム長は、超臨界二酸化炭素溶媒と担持ロジウム触媒の組み合わせにより、フェノールからシクロヘキサノールとシクロヘキサノンを従来技術より低温で かつ高効率に得る合成技術を開発したと発表した[産業技術総合研究所:超臨界CO2を利用したフェノール水素化技術の開発に初めて成功]。 低温だから、それだけ触媒の寿命が延びるわけだが、触媒として白金の代わりにロジウムが使われている。ロジウムは白金と同じぐらい高額なので、触媒のコストダウンにはならない。