「国産バイオ燃料の大幅な生産拡大」のまとめ


 「バイオマス・ニッポン総合戦略」が2007年2月に報告した「国産バイオ燃料の大幅な生産拡大」の内容をまとめてみた。


■生産目標

 まず国産バイオ燃料の生産目標であるが、農水省が「2011年度に単年度5万キロリットル(原油換算3万キロリットル)の国産バイオ燃料の生産を目指す」とし、また石油業界が2010年度に36万キロリットル(原油換算21万キロリットル)のバイオ燃料の導入を図ることとしている。

 さらに2030年頃までに、稲わらや木材等のセルロース系原料や資源作物全体からバイオエタノールを高効率に製造できる技術等を開発し、国産バイオ燃料の生産拡大に向けて課題を解決することを目指し「国産バイオ燃料の大幅な生産拡大を図る」としている。


■世界情勢

 バイオ燃料の利用がみられる諸外国では、その利用を促進するために政府による導入目標の提示、税制、補助等の支援策がとられている。特に米国では「2005年エネルギー政策法」が成立、2012年には約2,800万キロリットル)の自動車燃料としての供給が定められている。さらに、2007年1月のブッシュ大統領の一般教書では、この義務量をさらに拡大し、2017年までに(約1.3億キロリットル)とすることに言及している。


■感想

 産油国や欧米はエネルギー源の分散化を進めている。バイオ燃料への取り組みはその一環なのだろう。日本は原子力立国を目指し投資を集中しているが、もっとエネルギー源を分散するために投資も分散させるべきではないだろうか。




 下記は「国産バイオ燃料の大幅な生産拡大」にある各項目のまとめ。




1.バイオ燃料の賦存量


 日本において未開発のバイオマス賦存量(ふぞんりょう)はどれくらいあるのでしょうか。

 「バイオマス・ニッポン総合戦略」ではバイオマスを「廃棄物系バイオマス」「未利用バイオマス」「資源作物」に分けています。これらのうち未開発のバイオマス賦存量は原油換算で年間約2000万キロリットルと計算されています。

 ちなみに、日本の年間エネルギー消費量を原油換算すると約4億キロリットルとのこと。原油輸入量は約2億5000万キロリットル。そのうち農業での消費は全体の2%(約800万キロリットル)とのことですから、農家、農村を含めたエネルギー消費量の大半はバイオマスでまかなえるかも知れません。


  日本の年間エネルギー消費 : 4億キロリットル
  原油輸入量        : 2.5億キロリットル
  農業での消費       :  800万キロリットル
  バイオマス賦存量     : 2000万キロリットル


 詳細:バイオマスの賦存量




2.バイオマス利用率の変遷とその要因


  「バイオマス・ニッポン総合戦略」ではバイオマスを「廃棄物系バイオマス」「未利用バイオマス」「資源作物」に分けています。今回はそれぞれの利用率の変遷とその要因をまとめてみます。


 「廃棄物系バイオマス

  利用率:「バイオマス・ニッポン総合戦略」策定以後4%の向上。
  要 因:個別リサイクル法の規制
  課 題:家庭系生ごみの有効利用、家畜排せつ物の需給不均衡

 「未利用バイオマス

  利用率:「バイオマス・ニッポン総合戦略」策定以後1%の向上
  要 因:効率的な収集システムの確立(収集できていない)

 「資源作物」

  利用率:ほとんど認められない
  今 後:約38.6万ha存在する耕作放棄地等を活用


 ■まとめ


 農業として魅力的なのは「資源作物」であろう。耕作放棄地に雑草を生やしておくよりは菜の花などを栽培して油をとったほうがよい。あとはコストの問題である。


 詳細:バイオマス利用率の変遷とその要因




3.日本と諸外国におけるバイオ燃料の現状


バイオエタノール:ガソリン代替


 ガソリン代替となるバイオエタノールには2種類ある


 1.ガソリンとバイオエタノールを直接混合する方式

 2.バイオエタノールから添加剤を製造しこれをガソリンに添加する方式

   添加剤:エチル・ターシャリー・ブチル・エーテルETBE



バイオディーゼル燃料:軽油代替


 軽油代替となるバイオディーゼル燃料について


 原料:菜種油、廃食用油等の油脂

 加工:メチルエステル化等の化学処理により

    脂肪酸メチルエステルなどの軽油に近い物性に変換



□世界情勢:生産量:2005年末時点


 バイオエタノール  :約3,650万キロリットル

 バイオディーゼル燃料:約400万キロリットル


 バイオエタノールについては、アメリカ、ブラジルの2カ国の生産量が突出。EU、中国、インド等で生産量は拡大している。生産されたバイオエタノールはガソリンとの直接混合で利用。アメリカの一部の州やブラジルでは、混合割合の義務化。


 ETBEは、スペイン、フランス等、EUを中心に利用されている。


 バイオ燃料の利用がみられる諸外国では、その利用を促進するために、政府による導入目標の提示、税制、補助等の支援策がとられている。



□世界情勢:今後


 米国では「2005年エネルギー政策法」が成立、2012年には約2,800万キロリットル)の自動車燃料としての供給が定められている。さらに、2007年1月のブッシュ大統領の一般教書では、この義務量をさらに拡大し、2017年までに(約1.3億キロリットル)とすることに言及している。他方、最近、バイオ燃料の急激な需要拡大に伴い、トウモロコシ等のバイオ燃料の原料となる農作物の価格が高騰するといった問題等を懸念する声もある。



■まとめ


 産油国アメリカ、EUなどは、原油価格の高騰に対応するためエネルギー源の分散化を図っている。一方で日本は原子力に注力するあまり、バイオマスなどへの対応が遅れている。「バイオマス・ニッポン総合戦略」でどれだけ巻き返せるかが注目される。



 詳細:日本と諸外国におけるバイオ燃料の現状




4.国産バイオ燃料の課題・検討事項



□技術面での課題


 ・耕地の有効活用
 ・バイオマス量の大きな資源作物の育成
 ・省力・低コスト栽培技術の開発
 ・未利用バイオマス(稲わら、林地残材等)の効率的な収集・運搬システム
 ・セルロース系原料(稲わら、林地残材等)の効率的なバイオエタノール生産技術
 ・発酵後、エタノールの濃縮、蒸留、脱水工程での効率化
 ・廃液、副生成物の利用・処理技術



□制度面等での課題


 【バイオ燃料混合率】

 ・バイオエタノールについて

 国内では昭和51年法律第88号:「品確法」により、バイオエタノールをガソリンに3%まで混合することが可能。ブラジルでは20-25%、アメリカではいくつかの州で10%の混合義務化。


 現在の国内の自動車メーカーで生産される新車のうち、バイオエタノール10%混合ガソリン(E10)までは対応可能なものもある。2020年頃までを目途に、エタノールを含む含酸素化合物の混合上限規定を見直す。


 ・バイオディーゼル燃料について


 粗悪な品質の燃料などがあり、また我が国で流通している自動車は、100%バイオディーゼル燃料の使用を前提として製造されたものではないこと等により、自動車に不具合が生じる場合がある。



 【 製造、流通、貯蔵、利用】


 ・バイオ燃料の流通・利用時における大気汚染防止対策
 ・E3での水分混入防止等の対策の徹底が不可欠
 ・ETBEの長期毒性試験・リスク評価
 ・[国土交通省]E10対応車の技術基準等の整備
 ・[経済産業省]品質や徴税公平性を確保するための新たな制度インフラの検討



□その他


 1. 国民に対する理解促進

 国産バイオ燃料の利用による効果等について、国民の理解を得ることが重要。国産バイオ燃料利用の具体的な実践は、農業、食料、環境、エネルギー等幅広い分野の教育要素を有していることに留意し、将来を担う児童生徒に向けた教育を充実することも重要である。


 2. ライフサイクル全体でのエネルギー効率、温室効果ガス削減効果の評価

 バイオマスエネルギーは、カーボンニュートラル等の効果を有する一方で、バイオ燃料の生産過程で使用するエネルギーや排出するCO2量が多くなれば負の効果が生じることも懸念される。



 3. 飲料用・工業用を含むアルコール流通市場の混乱の防止

 エタノールは、国内においては飲料用・工業用に利用が進んでいる。今後、燃料用として生産されたエタノールが、既存の飲料用・工業用に流入し、市場の混乱を招くことのないようにするべきである。



■まとめ

 バイオ燃料先進国などの事例より技術は確実に発展してゆくだろう。ゆえに最も重要な課題としては、「その他」の「国民に対する理解促進」が上げられるのではないだろうか。

 「原子力立国計画」に負けない告知・広告を望む。



 詳細:国産バイオ燃料の課題・検討事項




5.国産バイオ燃料の工程表



□工程表の作成の考え方


 2010年頃までは規格外小麦や廃棄物を安価に調達し生産を行っていく。

 2030年頃には、稲わらや木材等のセルロース系原料や資源作物全体から高効率にバイオエタノールを生産し、他の燃料や国際価格と比較して競争力を有する国産バイオ燃料の大幅な生産拡大を図る。



□大幅な生産拡大に向けた工程表


 (1) 現時点で利用可能な作物等


 ・原料を安価に調達できる規格外農産物やさとうきび糖みつ等農産物の副産物
 ・廃棄物処理費用を徴収しつつ原料として調達できる建設発生木材等


 (2) 今後5年間で技術開発する作物等


 ・稲わら等の草本
 ・製材工場等残材等


 (3) 今後10年間で技術開発する作物等

 ・原料の収集・運搬コストが必要となる林地残材
 ・資源作物(ゲノム情報を利用した多収品種)



■まとめ

 2030年に競争力を有する国産バイオ燃料が大幅な生産拡大を遂げているかが注目される。稲ワラや林地残材をどう収集・運搬するか、理想的な資源作物が作れるかがポイントとなる。



 詳細:国産バイオ燃料の工程表




6.国産バイオ燃料の生産目標


□2010年


 農林水産省は、さとうきび糖みつや規格外小麦等の安価な原料を用いたバイオ燃料の利用モデルの整備と技術実証を行い、2011年度に単年度5万キロリットル(原油換算3万キロリットル)の国産バイオ燃料の生産を目指す。

 環境省は、建設発生木材を利用した国産バイオ燃料製造設備の拡充等を支援する事業を行い、今後数年内に単年度約1万キロリットル(原油換算約0.6万キロリットル)の国産バイオ燃料の生産を目指す。

 石油業界は、2010年度に36万キロリットル(原油換算21万キロリットル)のバイオ燃料の導入を図ることとしている。



□2030年


 稲わらや木材等のセルロース系原料や資源作物全体からバイオエタノールを高効率に製造できる技術等を開発し、国産バイオ燃料の生産拡大に向けて課題を解決することを目指す。これらの革新的技術を十分に活用し、他の燃料や国際価格と比較して競争力を有することを前提として、2030年ごろまでに国産バイオ燃料の大幅な生産拡大を図る。



■まとめ

 2010年の目標レベルは現実的なところだが規模的には小さすぎる。2030年の目標である「競争力を有することを前提」とした大幅な生産拡大に期待したい。



 詳細:国産バイオ燃料の生産目標